2010年12月8日水曜日

ソーラーパネルを持つスズメバチ

まさかスズメバチが太陽光をエネルギーにかえて利用しているとは誰も予想してなかったしょう。変温動物の昆虫にとって熱は危険で避けるものだと私も思っていました。ところが、このスズメバチは腹部に黄色のストライプがあり、そこにソーラーパネルのような構造があるのです。パネルの構造は、原子間顕微鏡で明らかになりました。つまりナノスケールの構造です。太陽光を反射するのではなく体内に取り込むギザギザの構造になっています。さらにxanthopterinという物質が光を電気エネルギーに変換している可能性があります。

スズメバチは太陽が出ると活動度が大きく上昇するのですが、それはソーラーパワーによるものだったというわけです。 暑い昼間は、木陰でお昼寝している昆虫が多いと思うのですが、言われてみればスズメバチは炎天下でも元気ですね。それにしても、ソーラーパネルを作り出すまでにどのような進化の過程があったのか教えてほしいものです。またスズメバチが全エネルギーのどれだけを太陽から得ているのでしょうか。スズメバチの生体内で実際に太陽エネルギーがxanthopterinを経て使われているという生理学的な研究が必要です。

http://news.bbc.co.uk/earth/hi/earth_news/newsid_9254000/9254445.stm

この研究はドイツの伝統ある科学雑誌Naturwissenschaftenに発表されました。この雑誌は昔はすべてドイツ語でしたが今は雑誌のタイトルにしかドイツ語がありません。

2010年11月23日火曜日

地下鉄に乗って

地下鉄通勤を始めて1日に目にする人の顔の数が増えました。ぼくは車内で見渡せる範囲にある人の顔の表情、服装、持ち物を見る習性がある。同じことをして いる人がいれば目が合うはずですが、その経験はほとんどありません。地下通路を歩くときも同じですから雑踏の中でも知人を見つけることがあります。

車内の人は、目を閉じているか、携帯を見ているか、本を読んでいるかです。タイに長く暮らしている ひろこちゃんが久しぶりに帰国して、地下鉄の車内で人々が他人に無関心で死んだようにしているのを見て、この国には住めないと感じたそうです。タイでは人は他人に対してとてもやさしく、家族のように接してくれるのだそうです。

確かに日本の列車の中の情景は冷たい。新幹線が走るようになった頃から、車内の人と人の間に壁ができたのではないだろうか。私が学生の頃は東北本線の特急で隣に座った人と何度か話をして、みかんなどを貰ったこともあったことを思い出しました。海外で飛行機に乗っ た時も、何度か隣の人と話し込んだことがありますし、友達になって訪問したこともあります。

ルーブル駅のホームが美術館

パリの地下鉄の情景には日本と違う多くのことがある。まずパリでは、様々な人種、肌の色が異なる人が乗り合わせている。座席のほとんどが4人掛けのボックスシートである。全員が携帯を操作しているという情景を見ることはなく、何かを読んでいる人が目につく。朝は駅で配っている無料のニュース紙を読んでいる人もいれば、とても分厚い本を読んでいる人が多い。クロスワードをやっている人も見かける。

ドアの近くと車両の両端には折りたたみ式の座席がついていてぼくはそこに座ることが多い。そこから立ち上がるとバタンと大きな音がする。新しい車両を除いてドアを開けるのは手動で、停車駅のアナウンスも表示もない。ときどき、工事中で通過する駅があったりする。ミュージシャンが乗ってきて様々な音楽を演奏することもある。彼らは審査を通っているので誰でもできるわけではない。

パリで地下鉄や近郊電車RERに乗るととてもなつかしい気がする。パリに戻ってきたんだといううれしさを感じる。朝の車両は香水の香りで満ちている。ホームは駅によってデザイン(字体、椅子の形や色も)が異なることが多い。また壁の広告も芸術的だ。そして運転手の服装は自由でとても気軽だ。このようにひとつひとつがパリ的である。

2010年11月16日火曜日

欧州への航路

戦後しばらくにいたるまで欧州に留学した多くの人は、神戸、横浜から船に乗り、シンガポール、インド洋、スエズ運河といくつもの海を航海し1ヶ月半をかけてマルセイユにたどり着いた。そして陸路でパリに入ったのである。

1957年に北回りの航空路が開設されたが、軍事上の理由でロシア上空を飛ぶことができず、アンカレッジ経由で北極回りだった。1983年に、空路を間 違ってロシアの空域に侵入した大韓航空機がソビエト軍機により撃墜された事件は衝撃的だった。ソビエトが崩壊した1990年代に入り、シベリア上空を飛ぶ 直行便の運行がようやく始まったのである。私が初めて欧州に行ったのはシベリア上空を飛べるようになった頃だった。

今日、欧州に行くには以下の5つの選択肢があります。

0. シベリア鉄道で1週間かけて(これで行った人も来た人も知人にいますよ)
1. 福岡からソウル・インチョン 大韓航空で欧州
2. 福岡から、香港、シンガポール経由 乗り継ぎ待ち時間がたっぷりある
(成田からドバイへのルートもあります)
3. 福岡から早朝便で成田へ 欧州へ JAL, ANAなど
4. 格安航空で数日かけて行く(たぶん5回ほど乗り継いで、関空-フィリピン------)

わたしはこれまで一度だけソウル経由でした。成田経由だと朝は5時には起きなければならず、夜遅くまで荷造りをしていると睡眠時間が短くなります。また、帰国時は成田から羽田までバス移動がほとんどで、夜遅くに福岡に着きます。このバス移動がいちばんきらいでした。

中部国際空港や関空発のパリ便を使うことも多かったのですがJALの経営難で廃止になりました。中部国際と福岡間のJAL便もなくなったのですから。中部国際空港発のパリ着は成田便よりも早く、各地への乗り継ぎにも便利でした。成田便の到着時間はラッシュ時に食い込み、空港からパリ市内への移動もたいへんです。

10月21日に羽田の国際線ターミナルがオープンしました。羽田発着になると欧州への旅程が一変します。一日の仕事を終えて空港に行けばよく、さらに現地に6:20に到着した朝から行動できます。体験してみないとわかりませんが、おそらく時差ぼけになりにくと思います。私は機上では一睡もできないたちですが、深夜発便では寝れないかと期待しています。帰路でパリ発朝11時というのも好都合です。起きてすぐに空港に向かえばいいわけですから。これまでは、午後の発時刻だったので、帰る日は中途半端な使い方しかできませんでした。また、羽田に朝到着するので、帰福してからラボにくることもできます。

2010年11月15日月曜日

東京の朝

浜松町での班会議が終わり今日は東大でシンポジウムがある。朝8時過ぎにホテルを出てJR浜松町駅へ歩いて行くと、駅から出てきたスーツ姿のビジネスマン・ウーマンが歩道にあふれていた。その人並みを逆行して歩き、改札を通りホームへ降りようとすると階段は昇ってくる人であふれていた。列車が数分おきに到着すると階段へ向かう人のかたまりが渋滞する。都心の駅の朝はどこでもこのような有様だ。私は福岡での通勤も地下鉄のラッシュを避けている。東京でこの時間の通勤が毎日なら憂鬱だ。

本郷3丁目で降りて久しぶりに東大構内に入った。私は大学院のときにここで1年ほどを過ごしたことがある。シンポジウムの会場がちょうどそのあたりだったが、すでに昔の物理の建物は取り壊され新しい建物に置き換わっている。昔の建物にあった籠式のエレベーターがなつかしい。構内にはスタバの他にいくつかのカフェが出来ていた。安田講堂の脇の売店の品揃えはコンビニの4倍ほどの規模で、どこの大学でもやっている東大の名を冠した品々があふれていた。

昼食を食べた生協の食堂は建物も中の雰囲気も昔のままだった。やはり大学は町の中にあるべきだ。東大も昔は郊外への移転話があったがこのままで良かった。新しい建物がどんどん建っていくのであろうが、ケンブリッジのように何百年以上の建物がそのまま使われているように昔の建物も残してほしいものである。赤門と三四郎池は残るだろうが。それにしても九大は愚かな選択をしたものである。

この前会ったドイツ人は東京はエキサイティングだと言っていた。たしかに東京は無秩序だが常に新生している。空港モノレールは途中に国際ターミナルの新駅が出来ていた。 今度パリに出かけるときは深夜にここから発つつもりだ。そして、朝のパリに舞い降りる。

2010年11月12日金曜日

英語の壁 (2)

フランスのinraのラボでは全員が揃って昼食を食べに行きます。全員が揃うことはとても重要で一人を残していくことは悪いことだと思っているようです。全員が座れる机を探して席に着きます。食事はおしゃべりの時間です。私の周囲の会話は英語ですが、しばらくするとフランス語になってしまうことが常です。時々、フレッドらが英語で解説してくれます。

ドイツでは、ラボのメンバーが連れ立ってランチに行くことはありません。食事の席では同様に話が弾みますがドイツ語になってしまうことはほとんどありません。

先日、韓国からの訪問者を迎えてお茶をしました。しばらくして英語で話が続けられなく話が日本語になって話題も飛んでしまうことがありました。周りでわからない言葉で話が盛り上がってしまうと理解できない人は疎外感を味わってしまいますね。

2010年11月4日木曜日

流れのほとりにて

突然思いついてブログを始めた。ただし目的は研究室内での情報交換と知識の共有のためだったので、ブログは招待制とした。毎日更新などは目標にしなくて思いついたときに書くことにしました。

しばらくして、投稿の中で一般に公開しても問題なく、読んでいただきたい文章があるのかと探してみたが、意外に少なかった。でも試しに「流れのほとりにて」でそれらを公開することにした。

1週間に一度ほど投稿できればと思っています。アクセス数が急増するようなホットな話題は避けて、あまり注目されないようにほそぼそと行きたいと思っています。



2010年10月29日金曜日

英語の壁(1)

国内の学会で使用言語を英語にするところが増えてきた。アジアを中心とした国外からの参加者を学会に迎えるためには必要なことであり、基本的には賛成である。しかし、日本の院生の参加を考えると問題がある。大学院に入る院生の英語能力は英語化に対応できるレベルではない。TOEICが800点以上であれば問題はないだろうが、そのような人は例外である。


修士の院生を考えると、彼らにはまず日本語での発表練習が必要である。それができるようになってはじめて英語での発表練習がある。英語の発表練習は、発音の指導から始まりたいへん時間と手間を要する。


英語の学会に参加した場合はヒアリング力が問題だ。日本語で聞いてもすべては理解できないのに、英語だとさらに理解が悪くなる。


さらなる問題は質疑応答である。これまで国内の英語による集会で何回も遭遇していることがある。まず質問するのは英語が流暢な人に限られる。しかし、演者が質問を理解できないこと、返答がまもとにできないことも多く、まったく意味がないのである。挙句の果てに海外からの参加者から日本語でやれと言われる。


どうすればよいのか。そのためには、大学1年の時から英語の総合的訓練をする必要がある。 読み書きとヒアリングとスピーチのすべてである。もちろん高校までの英語教育に問題があることは言うまでもない。

2010年10月28日木曜日

おすすめのお店

フランスからのお客さんにのために推薦した福岡のお店(天神、六本松)を書いておきます。
フランス人は日本食の良さがわかるのです。

桜島(六本松) 
イカ活き作り その日に入ったイカを刺身にしてくれる 吸盤がくっつく 海外からの訪問者は必ず連れて行く店  稚加栄のカウンターも良いが下足はあとで揚げる

さくら(六本松) 
学生街のお好み焼き 自分で焼く ベルリンのミツバチ研究で有名なMenzel先生も連れて行って喜んでもらえた ソースの濃い味はアメリカ人も好き

ひらお(天神など) 
安くておいしい天ぷら  庶民的 置いてあるイカの塩辛もおいしい 780円で揚げたてを食べられる 食券式 貝塚にあるが天神東宝ビル1Fにも発見 

ひょうたん寿司 (ソラリア地階) 
回転寿司 並ばないと入れない 実はわたしは未体験

わっぱ食堂(天神) 
家庭料理的定食屋さん 生卵定食もある 赤坂店も 

村岡総本舗(浄水通り) 
佐賀の和菓子屋さん 選んだ和菓子と抹茶をいただける 羊羹で有名ですね

煙草屋(谷) 
木香庵のバー カウンターの一枚板は成田さんの提供  和風の雰囲気がすばらしい 値段は高め ここも必ず海外からの訪問者と行くところ

2010年10月26日火曜日

ところ変われば同じ結果は出ない

ショウジョウバエが絶食下で何時間後に死亡するかは、ハエの栄養状態や遺伝的背景などによって異なります。

ドイツで興味ある話を聞いた。ラボを引っ越してからハエの味覚学習の学習スコアが下がってしまった。原因を調べていくと新しい研究所の餌の組成が良くてハ エの絶食がかかっていないことがわかった。絶食時間を変えて調べてみたところ、20-30%ほどのハエが死ぬ条件で学習スコアが高いことがわかった。つま り空腹であるほど動機づけが強くなるのである。結局48時間の絶食条件で実験していた。

別の話。ドイツのHeisenberg研でフライトシュミレーターの研究をしていた中国からの研究者が帰国し、持ち帰った装置とハエを用いて北京で同じ実験を行った。しかしハエが学習をしない。調べたところ餌の栄養が貧弱であることが原因であることがわかり、その件で論文を書いた。年齢と経験も影響があるが何よりもエサの組成ということです。

2010年10月21日木曜日

科学研究費と国民 

今、書いている文部科学省の科学研究費の申請書で「本研究の研究成果を社会・国民に発信する方法等を書きなさいという項目が今年度から新しく加わった。このことを自覚して申請をしなさいという意義があると思うのだが、実際にその方法を書くのは難しい。たぶん多くの人は、ウエブサイトで公開とか書くのであろうが、、、 私はSSHや エクセレント・スチューデント・イン・サイエンス育成プロジェクト の高校生に実験をしてもらって直接伝えると書いたが、、、

2010年10月12日火曜日

ゴキブリを歩かせる

ある日、福岡の会社から電話があって映画撮影のためにゴキブリの出演を手伝うことになった。なぜ私に依頼があったのかは謎である(ハエ関係ではときどき連絡がある)が、おもしろそうなので引き受けた。でもこんなことを引き受ける研究者はあまりいないかも。福大のラボから10匹のワモンゴキブリをもらった。誠に幸運なことに新入りのAがゴキブリを素手で捕まえるのが平気(得意)であることがわかり助手に採用した。人は見かけによらない。

1週間前に祇園の事務所に出かけ予行練習をする。ホースから出して歩かせようとしたが、一度出演したごきさんは恐怖学習したのか、2度目はいやがってなかなかホースから出てこない。ホースの中を後ずさりしたりターンする。

11日祝日の昼前、本番の日、地下鉄七隈線の駅でayと待ち合わせ、指定されたアパートへ。城南線から細道を入ったところの庶民的なアパートの一室だった。カメラ担当が4名、監督と補助の数名に加えて、メイク担当が4名など総勢12名ほどがいた。

手作りのおにぎりの昼食をいただいてからいよいよ撮影開始。私がごきを放してAが回収するのを何十回と繰り返す。箱を伝わって胸に登り顔まで歩くというのが求められていたルートだったが、カメラの動きに合わせて動かせるなど不可能なので、2匹を時間をずらせて放す。予行練習の時とちがって、ごきさんもテンションがあがっていたのか出演拒否はしなかった。最後はほっぺの上からスタートを繰り返す。

主演男性はさすが度胸が決まっていて眼を開けたままビクともしない。途中、メイクが何回も入る。2時間以上の撮影で50カット以上を撮影して終わり、解放されてごきさんたちと帰途につく。手にはゴキブリの匂いがついたまま。慣れない仕事でかなりエネルギーを消耗しました。でもいちばん疲れたのはごきさんだっただろう。で、役目を終えた彼らのその後の運命はまだ決まっていない。

2010年10月5日火曜日

アカデミック・ハラスメント

FD(Faculty Development)という教員向けの講演・勉強会が10年ほど前から行われています。出席を取られます!今日はアカハラについてでした。アカデミック・ハラスメントは和製英語だそうです。

具体的な事例の紹介もありました。夜遅くとか日曜日まで働くことを強要されるとか、修士の人の研究成果をドクターの人の成果として発表するように言われたが拒否したらいじめにあったとか、進路変更に印鑑を押さなかったとかいろいろです。講座内の教員の人間関係のごたごたに巻き込まれるというのも。

九大の院生へのアンケートでは20%強の方がアカハラを受けたと回答しているそうです。他大学出身者は教員との関係が問題になることが多いとありましたが、どうなんでしょうか。

教員が昔過ごした研究生活のやり方を再現するのは諦めないといけませんね。大学院の定員が増えすぎたことなど時代的な問題もあります。最近の学生は「上手に効率よく教えられることに慣れている」というポイントが意外でした。

最後に話されたコミュニケーションについての5つの注意は他の場面でも大事だと思いました。

1. 一方的でなく、双方向のやり取りを大事にする。
2. 初めから伝えたいことをすべてを話してしまわない。
3. 話し方に注意する。
4. 正論を語るときは気をつける。
5. 言葉と、話し手の気持ちを区別して聴く。

2010年10月1日金曜日

英語の勉強

接頭語を知っていると英語単語の見え方がちがってきます。

例えば、化学物質の構造異性体にcis, transがありますが、 transは不斉炭素の枝の反対側に同じ元素があるものですね。transは「向こうへ」という意味があるからです。transport, translation, transcription, transferなどはそこから意味が類推できます。先に書いた、isogenic, isofemaleに加えて、isotope, isotonicなどもisoから類推できますね。

以下のサイトが参考になります。

http://igakueigo.at.webry.info/200912/article_5.html

http://www.eigono.com/gogen03.htm

2010年9月30日木曜日

CyOの "O"

Cyは翅の突然変異体です。 CyO(Curly of Oster )は、Osterさん(Bowling Green State University, Bowling Green)が1956年に報告した染色体逆位を持った系統で、第2染色体のバランサーとして用いられています。元になったはIn(2LR)Oで、これは第2染色体の左腕と右腕の間の逆位の意味です。

バランサーは、FM, SM, TMが頭につくのが規則ですが、 CyOはその規則ができる前からの名称なのでそのままなのです。他にも、Basc, Binsnとかありましたが今は使われていません。バランサーといえども交叉が100%抑制されるわけではなく遺伝子座によっては交叉が起こります。 CyOはその点で優れたバランサーであったのでそのまま使われているわけです。

違う分野で名称について同じようなことは、酵素名のtrypsin, pepsinについても言えますね。-aseで終わるという規則の適用外です。

2010年9月29日水曜日

Genetic Background 遺伝的背景に気をつけましょう

Canton-S, Oregon-Rなどの系統はisogenic strainとよばれていますが、誤解を与える名称です。これらは野外から採取してきたハエを近親交配を繰り返して確立した系統ですが、近親交配が何十代も行われた直後は、個体間の遺伝的な違いはほとんどない遺伝的に均一な系統です。

しかし、その後何十年も飼育されているとその集団内に変異が蓄積されてきます。異なる研究室のCanton-Sも遺伝的に同じとは言えないわけです。研究室では飼育条件も異なるので蓄積された変異の集団内での残り方も異なるでしょう。実際、Canton-S系統から異なる行動形質が選抜できたという実験例が報告されています。

遺伝的な変異がどのような形質の差異に関わっているかを調べるために、興味あるプロジェクトがすでに始まっています。自然集団から採取した1匹のメスから増やしたisofemale lineを確立して各系統の全遺伝子の発現レベルをマイクロアレイを用いて調べ、複数の研究者が異なる形質をテストし、マイクロアレイの結果と対応させるという研究です。

さて、実験で用いている異なる系統間の遺伝的な変異も問題になります。例えば、様々な系統の学習能力を調べてみると随分違います。Gal4, UAS系統を用いた実験では、何をコントロールにするかが大きな問題です。それぞれのGal4, UAS系統がコントロールになるという考えもありますが、それぞれをwhiteに交配してヘテロを用いている論文も多いです。

遺伝的なマーカーがある場合は、戻し交雑によって用いる系統の遺伝的な背景を揃えることもよく行われます。P因子挿入系統はw[+]がありますから、whiteの系統に交配してw[+]をひろうという作業を繰り返せば、挿入部位以外の遺伝背景をwhiteに揃えることができるわけです。その場合、w[+]のハエはメスにすべきです。雄では組み換えが起こらないからです。

2010年9月28日火曜日

TAの心得

teaching assistantが日本でも導入されたのは何年前からか忘れましたが、その心得とか役割が確立されていないように思います。TA予算が先にあり院生に支払っておこうかという感じがします。全学共通教育の学生実験や学部での実習にTAが配置されます。私のラボでは、SSHやESSP(未来の科学者育成講座)のように高校生の実験にもTAの働きがあります。ここでは本来の意味を考えるという立場で原則的なことを書きます。金額は確かに少ないですが、、

1. 勤務時間
実習のTAの学生がずっと座って内職をしていることがありますが、 実習におけるTAの役割は見張りだけでないので、勤務期間中は働いているという自覚をもって勤務に集中してほしいです。回りながら指導、助言できることは多くあります。

2. 実験内容
自分で行ったことがない実験でなければ上手く指導できません。どのような実験でも注意すべき重要なポイントがありますので、適切な助言を与えるためには実験の操作の理解が要ります。

3. とっさの判断
簡単に思われる操作でも初心者には難しいです。トラブルを未然に防ぐために事前の指示、デモンストレーションを丁寧に行い、さらに実際の作業を見ていてアドバイスすることが求められます。

4. TAの役割で私が大切だと思うのは、先輩として学問の楽しさと難しさを伝えることだと思います。

2010年9月24日金曜日

スモークチーズだったんだ!

海外では「これは何だろう?!」というもので、持って帰ることができる食物を買うことが多い。昔、ポーランドの古都クラクフに行ったときに駅前の公園でおばさんがバスケットに石鹸のようなものをたくさん入れてを売っていた。食べ物にも思えたので買って帰国してから食べてみたが、やはり食べるものではないような気がして、またおいしくもなかったので捨ててしまった。その正体がクラクフの住民(ボクダンさん)のブログで判明した。そのまま食べるのではなく、お料理に使うようだ。今度行ったら買ってくるぞ。まだ4度目のポーランド行きの予定はないが。

 

2010年9月23日木曜日

学術集会さまざま (3)

学会発表は何のため?

新しい研究成果を発表するためである。論文になっていることは学会発表しない。学会発表は「私たちはこのような新しい発見をしました」という宣伝である。

同時に他の研究者との議論が重要である。近年、ポスター発表が一般的になったが、発表の時間が短くて多くの研究者に聞いてもらい議論できないという欠点があると思う。すでに先客がいて議論していると、話が終わるまで加わることができない。加えて、院生が聴衆の前で発表をするという緊張感を体験できない。

もうひとつの意義は学会の会場で出てからの交流にある。その時に、いつものラボのメンバーでなく他の研究者と親しく話す機会となればよい。

2010年9月22日水曜日

学術集会さまざま(2)

5月にボンで参加した集まりはとてもよかった。まず、参加人数が30名ほどでほとんどの人と話をすることができた。さらに、テーマが「昆虫における栄養とホメオスタシス」と、まだ確立されていない新しい領域で、普段はあまり会えない研究者とも話ができた。学会という組織は一度できたらなかなか解散できないし、毎年、学会を開催しなければならない。分子生物学会のように栄えている学会では演題数も増える一方だ。有名な演者のシンポジウム講演の時など、後ろに聴衆があふれての前の床に座っていることがある。質問者はマイクの前に並んで待っていて、質疑応答がなされている。福岡で開催された時はドームのグラウンドがポスター発表の会場だった。しかし、分子生物は巨大になりすぎている。会場も横浜か神戸が多くなり、町も混雑する。会場で誰かに会っても二度と会うことはない。

学術集会さまざま(1)

研究に関する集まりには、学会、シンポジウム、班会議などがある。研究者はそれぞれの専門によって所属する学会が異なるが、通常複数の学会に所属している。私が入っているのは、遺伝学会、生物物理学会、動物学会、比較生理生化学会、味と匂学会、分子生物学会、時間生物学学会である。この中には退会したい学会もあるが惰性で入ったままである。昔は年に2つほどの学会で発表をしていたことを思いだす。

最近の当研究室の院生が入って発表している学会は分子生物学会と味と匂学会だろう。隔年に開催されるショウジョウバエ研究集会にも参加している。これは年会費がなくだれでも参加発表ができるが、通常の学会は年会費を支払わないと発表できない。

海外では、米国のCold Spring Harbor(CSH)とヨーロッパで交互に隔年で開催される集会は「ショウジョウバエの神経生物学」に特化した集まりであり、参加する価値がある。共に200人以上の参加者がある。CSHは米国の参加者が多い。日本の学会では、例えば動物学会だとショウジョウバエの神経・行動に関する発表は数えるほどしないが、この海外の集会では200題以上の発表がある。日本のショウジョウバエ研究集会でも行動に関する発表は数十もない。当研究室では、こらら欧米の2つの集会で発表することを勧めており、これまで多くの人が出かけている。その場合、できるだけ一人で行かせるようにしている。

米国とヨーロッパの集会は明確に雰囲気が異なる。 Cold Spring Harborの会合は、たいへんレベルが高く、ほとんどがすでに有名雑誌に投稿済みの研究が発表される。講演は希望演題から選ばれ、朝から夕食後の夜10時まで発表が続く。Cold Spring Harbor研究所はニューヨークの郊外の別荘があるような隔離された場所にあり、宿舎はほとんどが共同でデリバリー食材の食事は味気ない。ただ、最後の夜のディナーのロブスターは食べ応えがある。私はたぶん4回ほど出席して2回講演した。

ヨーロッパの集会Neuroflyは、毎回違う都市で開催され近年の場所をあげると、マンチェスター(英)、ヴュルツブルク(独)、ルーベン(ベルギー)、ディジョン(仏)である。CSHのようにピリピリした雰囲気はあまりなく、演題の雰囲気も少し違うし、それぞれの町での滞在を楽しむこともできる。

2010年9月14日火曜日

もつこと と あること to have or to be

私は、人が持っている地位や財力や知識や権力によってその人との接し方を変える人を好きになれません、いや嫌いです。

例えば事務室で学生が話にいってまったく埒があかない状況で私が顔を出すと事務員の態度はがらっと変わったことがあります。院生が訪問した時には適当にあしらい、偉い人が尋ねて来たときはがらっと接待の仕方が変わる人がいます。業者に対して高飛車な人もいます。

わたしはどのような場においても、その人が持っているものでなく、そのひとがあるところものを大切にしたいと思うのです。

フランスから学ぶこと

インターンシップで私のラボにきているまえると話しているといろいろと学ぶことがあります。休日は出かけたの?と訊ねたら「PCを持ってスタバに行ってインターネットが繋がらないところで5時間粘って実験データをまとめてた。スタバはあほなアメリカ人が行くとこだからパリでは行かないけど」ってのたまった。

ヨーロッパの人々の多くはアメリカ人が嫌いです。フランスでは50%ほどの人がほんとに嫌いといいます。「あほなアメリカ人」という言葉が思わず出たのがおもしろかったです。日本人はアメリカ人の「あほさ」をわかっていません。

わたしも集中して仕事をしなければならない時は論文などを抱えてカフェに行きます。しかし、1時間もすると集中力が途切れてきます。まえるちゃんが5時間もデータをまとめていたという集中力に学びたいです。

月曜日にそのまとめをもらいましたが、よく書けていて役に立ちます。彼女を見ていると、データのまとめかたのうまさにいつも感心です。結果が出たらすぐにエクセルの表が仕上がります。これは彼女が受けてきたフランスの教育によるものに違いありません。

2010年4月13日火曜日

ラボのあり方

いろんなタイプの研究室がある。

ポスドクが何人もいる工場のようなラボでは、図1の遺伝子解析の実験は Aさん、図2の染色の実験はBさんとなどと分担して行うのでとても早く論文が出る。論文を書くのはボスである。でもそのようなラボからは一人でいろいろな実験ができるような研究者は育ちにくい。ボスは有名になるがポスドクや院生はパートの労働者のようだ。

牧場のように自由なラボでは、ボスはほとんど指導しないし何時に研究室に来ても文句は言われない。しかし、論文を書く時期になっての発表会で、それじゃあだめだ何をやっていたんだと叱責される。一方で別の人は画期的な成果をあげていることもある。

私が理想とするのはこのどちらでもなく、教官と少数の学生の関係が対等であるような、親密な個人経営のお店がいいと思う。


この3つのラボの形態は、昔、丸山工作先生が筋肉研究の有名な3つの研究室について書いておられたのを参考にした。