2011年11月10日木曜日

アゲハチョウが植物を味で見分けて産卵する仕組みを解明

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10年越しの共同研究の成果がようやく論文になりました。この共同研究は、JT生命誌研究館(BRH)で吉川先生が立ち上げられたプロジェクトで、尾崎さんが研究を始められ、私とフランスのフレッドのラボのメンバーが協力させていただきました。日仏共同研究の成果でもあります。以下はプレスリリースした文面です。

JTと九大でのプレスリリースの結果、ほとんどの新聞社が朝刊の記事にしてくれました。これはめったにないことだと思いますが「アゲハ・産卵」ということが一般受けしたからでしょう。各社の取材とメールや電話での対応に4時間以上の時間をとられましたが、これも研究者の社会に対する責務と思います。

ただ、取材を受けていて「遺伝子とは何か」の基礎的な理解を記者の方に持っていただきたいと思いました。遺伝子とタンパク質の関係について以下のようなことです。

「すべての細胞には中央図書館である核があって、核のなかの染色体に含まれるDNAに遺伝情報が書き込まれています。それぞれの細胞で必要なタンパク質をつくるための情報を図書館でコピーします。それがmRNAです。mRNAにはタンパク質のアミノ酸の並べ方の情報があります。」

☆ 概 要
 アゲハチョウ(ナミアゲハ)のメスは前脚で植物の葉の表面に触れて“味見”をすることで、幼虫が食べられる食草であることを見分けます。JT生命誌研究館の尾崎克久研究員、吉川 寛顧問らを中心とするグループとの共同研究によって、その味覚受容体タンパク質の分子的な実体を解明しました。本研究成果はNatureの姉妹紙のオンライン科学誌「Nature Communications」(1116日付)に掲載されました。

☆ 背 景
 アゲハチョウの幼虫は特定の植物だけを餌として発育するので、アゲハチョウのメスの成虫は植物種を正確に識別して適切な植物に産卵しなければいけません。そのためにアゲハチョウは前脚で葉の成分を“味見”していますが、そのためには葉に含まれる複数の化学物質の存在が必要であることがわかっていました。しかし、どのような味覚分子センサーが関わっているかは謎のままでした。

☆ 内 容
 本研究では、アゲハチョウの前脚で働いている遺伝子を解析し味覚受容体の候補遺伝子を発見しました。その遺伝子を昆虫の培養細胞で強制的に発現させて、葉に含まれる産卵刺激物質の一つであるシネフリンに対して特異的に反応することを確認しました。さらに、”RNA干渉法”とよばれる手法を用いて受容体の遺伝子の発現を抑制したアゲハチョウでは、前脚跗節にある化学感覚子のシネフリンに対する感受性が低下していることを電気生理実験により確認し、同時に産卵行動が抑制されることを観察しました。

☆ 効 果
 これまで、遺伝子レベルの研究が進んでいなかったチョウにおいて、産卵行動における味覚の役割を分子レベルで明らかにした成果はユニークです。今後、宿主と昆虫の関係を明らかにすることによって害虫の防除にも役立つ可能性があります。

☆ 今後の展開
 昆虫の食草の認識機構に何らかの変化が生じた場合、食草の変更が起こり、それが、種分化・進化の出発点となる可能性が考えられます。行動と遺伝子の進化の研究が今後展開していくことが期待されます。




2011年11月1日火曜日

もう11月

10月のブログ更新は1回だけでした。9月末に波乱のロシア旅行から戻り次の週には金沢に出かけました。金沢は学会でしたが食の世界がよかったです。その後は押し寄せてくる締切とたたかっていました。日曜日には徹夜もしました。でもまだ締切が過ぎた用件が山のようにあるのです。論文の査読もこのところ断っています。

            金沢で食した治部煮