2010年9月29日水曜日

Genetic Background 遺伝的背景に気をつけましょう

Canton-S, Oregon-Rなどの系統はisogenic strainとよばれていますが、誤解を与える名称です。これらは野外から採取してきたハエを近親交配を繰り返して確立した系統ですが、近親交配が何十代も行われた直後は、個体間の遺伝的な違いはほとんどない遺伝的に均一な系統です。

しかし、その後何十年も飼育されているとその集団内に変異が蓄積されてきます。異なる研究室のCanton-Sも遺伝的に同じとは言えないわけです。研究室では飼育条件も異なるので蓄積された変異の集団内での残り方も異なるでしょう。実際、Canton-S系統から異なる行動形質が選抜できたという実験例が報告されています。

遺伝的な変異がどのような形質の差異に関わっているかを調べるために、興味あるプロジェクトがすでに始まっています。自然集団から採取した1匹のメスから増やしたisofemale lineを確立して各系統の全遺伝子の発現レベルをマイクロアレイを用いて調べ、複数の研究者が異なる形質をテストし、マイクロアレイの結果と対応させるという研究です。

さて、実験で用いている異なる系統間の遺伝的な変異も問題になります。例えば、様々な系統の学習能力を調べてみると随分違います。Gal4, UAS系統を用いた実験では、何をコントロールにするかが大きな問題です。それぞれのGal4, UAS系統がコントロールになるという考えもありますが、それぞれをwhiteに交配してヘテロを用いている論文も多いです。

遺伝的なマーカーがある場合は、戻し交雑によって用いる系統の遺伝的な背景を揃えることもよく行われます。P因子挿入系統はw[+]がありますから、whiteの系統に交配してw[+]をひろうという作業を繰り返せば、挿入部位以外の遺伝背景をwhiteに揃えることができるわけです。その場合、w[+]のハエはメスにすべきです。雄では組み換えが起こらないからです。

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