2013年1月15日火曜日

Online Publication

今では新しい科学雑誌が発行されるとwebで公開されて論文をダウンロードして読むことができます(所属大学が購読をしていればです)。レーザープリンターで瞬時にカラー印刷ができるのは、ひと昔からみると夢のようなことです。インターネットがなかった時代は、雑誌が発行されてから論文を読むまでには長い月日がかかりました。

まず、Current Contentsという分野別に発行された世界中の雑誌の目次を掲載した雑誌がありました。航空便で取り寄せたその雑誌をチェックします。雑誌のうしろに論文のリプリントを請求する人の名前と住所がリストになっているのでリプリント請求葉書に記入して送ります。(だから昔は自分が論文を出したら何通のリプリント請求が来るか楽しみでした。)するとひと月以上たって通常は船便で論文が届きます。いろんな国の記念切手が貼られていて、海外に思いを馳せたことを思い出します。しかし請求して送ってくれるのは半数以下だったと記憶しています。

そういうわけですから論文が発行されてから実際に読むまでには数ヶ月のずれがあるのが普通でした。リプリントが来なかった論文は図書館に行ってコピーをとります。図書館の雑誌は船便で届きましたからこれも遅いです。このような検索、作業にどれだけの時間を要していたのでしょうか。古い雑誌の論文のコピーの時は、暗い書庫を歩き回って製本された雑誌を探し出して、コピー機のところまで抱えて持っていたものでした。

昔は時間だけでなくお金もかかりました。論文を出した時のリプリントの印刷費用、郵送料、さらにコピーに費やした金額はかなりのものでした。まあ、コピーがなかった時代には手書きで写本でしたが。

さて最近では、雑誌がwebで発行される前に印刷用の最終論文が出来上がった時点で論文が公開されるようになりました。多くの雑誌が早さを競うようになっています。また、印刷雑誌がなくオンライン出版だけというジャーナルがこれから増えてゆくでしょう。

さて、便利になったことで人間は昔より賢くなったのでしょうか?
それが問題です。

2013年1月10日木曜日

Gurdonの机の上

日本のマスコミのノーベル賞の報道は過熱しすぎるし、また世間や社会はノーベル賞受賞者を過大評価する。今回の生理医学賞はJohn Bertrand Gurdonとの同時受賞であるが授賞式の日に英国ではあまり報道されていないようだった。私はJohn Bertrand Gurdonの研究者としての生き方が好きだ。彼が劣等生だったという逸話がいい。

「中・高校のころ生物学の成績が250人中、最下位だったことがある。それでも、生物学に興味を持った。大学には他人よりも2年遅れで進み、生物学を研究 した。この経験から得られた教訓は、とても興味をひかれたものがあるなら、決してあきらめてはいけないということ。いったんあきらめると、後からやり直す のは難しい」

彼の机の上には額に入れられた成績レポートがのっている。担当の教官は「彼は科学者になりたいといっているそうだが、それはまったくばかげており、何かの科学ができるような可能性は皆無である」と書いている。これをいまなお飾っているのはなぜかと問われて答えた言葉がよい。
 
“When there are problems, like when an experiment doesn’t work, which often happens, it is nice to remind yourself that perhaps after all you are not so good at this job and the schoolmaster may have been right.”



 

付記:彼のノーベル賞受賞講演は思い出話ではなく最近の仕事をとてもわかりやすく論理的に話している。実験結果から考えるという姿勢が貫かれている。高度な実験結果について話しているのにわかりやすいは論理がはっきりしているからだろう。