2011年4月22日金曜日

ショウジョウバエも「考えて」食べる

論文を出しました。

Drosophila Evaluates and Learns the Nutritional Value of Sugars. Current Biology (2011), doi:10.1016/j.cub.2011.03.058

以下はプレスリリースした紹介文です。出版社Cell Pressから大学の広報に連絡があり、広報の方から要請があったので、ちゃんと対応しました。新聞に掲載されることと論文内容の科学的な重要性は必ずしも正の相関があるわけでなく、また、新聞に出たこと自体を評価の対象とすることが好きでないので、これまでは、プレスリリースすることにまじめに対応していませんでした。でも、研究成果をこのような方式で一般市民に公開することも研究者の社会に対する責任かなと考え直しました。わたしは、高校生に対する啓蒙活動に長年、かなり時間を割いているのですが、こちらはあまり評価の対象とはならないかな。

「ショウジョウバエは糖の栄養価を判断し学習することができる」

■ 概要
 ショウジョウバエを用いた実験によって、ハエは味にだまされることなく、栄養価を体内で判断してエネルギー源となる糖を学習できることを発見しました。本研究成果は、2011年4月21日正午(米国東部時間)に、米国の科学雑誌Current Biology誌オンライン版に掲載されます。
■ 背景
動物が食物の栄養価をどのように判断して食べているのかはまだよくわかっていません。食行動には味覚による判断が重要ですが、美味しいものがすべて栄養になるわけではありません。
人間は、栄養学の知識無しで、自分にとって必要な栄養素を選んで食べることができるのでしょうか。これを解明する手がかりとして、ショウジョウバエをモデルにした実験を行いました。
■ 内容
ソルビトールという糖はショウジョウバエにとって無味です。しかし、ハエにソルビトールだけを与えると生き延びることができます。アラビノースという糖は ショウジョウバエにとって甘いのですが、まったく栄養価がありません。ショウジョウバエにアラビノースだけを与えると最初は食べますが、その後はあまり食 べなくなります。このことより、ショウジョウバエは食べた後に体内でその栄養価を判断しているということが考えられます。
 ソルビトール寒天溶液に匂いA、水寒天溶液にに匂いBをつけて、10分間食べさせてから1時間何もないビンにいれるという試行を4回繰り返した後に、2種類の匂いのどちらを選ぶかを調べたところソルビトールと組み合わせた匂いの方をより多く選んだ。この結果はショウジョウバエが栄養価を学習できることを示している。
 用いた匂いはショウジョウバエが本来、好きでも嫌いでもなく中立的な匂いです。糖と匂いの組み合わせは二通りで行っています。匂いは寒天溶液に混ぜなく、ビンの蓋につけました。
■ 効果
 ショウジョウバエがこのような能力を持っているとはこれまで誰も考えていませんでした。また、人間とショウジョウバエは多くの遺伝子を共有しているため、ショウジョウバエは人間の食行動と栄養学研究のための良い実験モデルになるといえます。記者さんからは、この研究は人間にどのように応用できるのか、どのように役に立つのかと尋ねられます。しかし、この研究は直ちに応用に結びつくものではありません。
■ 今後の展開 
今後は、ショウジョウバエの体内でどのように栄養価を判断しているかを解明します。また、糖以外の食物の選択にも同様なメカニズムがあるかを研究していきます。

                      イラスト 谷崎 美桜子