2011年1月21日金曜日

パパの食習慣は子どもの遺伝子発現にまで伝わる

後天的な経験(獲得形質)が遺伝することは否定されています。しかし、昨年出た二つの論文は父親の食事内容が子どもにも影響を及ぼす可能性を示している。


ラットの雄に高脂肪の食事を与えメスの子孫の膵臓の遺伝子発現を調べたところ、インシュリンやグルコース代謝に関わる遺伝子の発現レベルが変化していた。特にインターロイキン受容体遺伝子の転写開始点の近くのメチル化が少なくなっていた。
Ng, S.-F. et al. Nature 467, 963–966 (2010)

別の仕事では、低タンパク質のエサをマウスに与えたところ、子孫の雌雄で脂肪、コレステロール代謝に関わる遺伝子の発現パターンが変化しており、同様にDNAのメチル化が変化していたという。
Carone, B. R. et al. Cell 143, 1084–1096 (2010)

母親の食事であれば卵細胞への影響が考えられるのですが、父親というのが驚きです。"epigenetics"がこれから注目されるのではないでしょうか。食事だけでなく、運動とか、精神的なストレスとかも影響するかも。

教養の遺伝学の講義では「獲得形質は遺伝しないんですか」 という質問がよくでる。ルイセンコの話を出しながら教科書的には否定して答えていたのですが、このような遺伝子発現のデータが出てくると再考する必要がありますね。

2011年1月7日金曜日

サンデル先生のハーバード講義

お正月にうわさの講義の放映を見ました。「なるほどこういうものなのね」というのが感想です。大教室で録画がなされているという状況にもかかわらず、先生の問いかけに対して多くの学生が冷静に発言していました。もちろん居眠りしている学生は映っていませんでした。日本の講義でも学生がこのように質問してくれるとよいのですが。やはり幼児期からの訓練の違いによるのでしょう。また、この講義には多くのTAがついていて入念な準備と反省による改善が行われているのもポイントでしょう。

サンデル先生は学生の発言を上手に切り取って話を進めていくやり方がうまいです。乱れることなく進めるのがプロですね。しかし、問いは極めて類型的で答えも予想されるものばかりですので、同じような講義を何年かしていればあのようにできるのでしょう。

哲学の内容については一般教養として教えるにはこの程度でよいが、こんな講義を毎週聴講しても表層的な哲学の知識しか身につかないでしょう。サンデル先生は政治哲学が専門だそうですが、講義は「だれにでもわかる実践政治哲学入門」といった感じです。ほとんどの学生が理解できるようなレベルです(高校生でも理解できる)。このようなレベルの内容で本までが出版されて売れているというのが理解できないです。

哲学をわかりやくすく説明する話としては、20年前に出てベストセラーになった「ソフィーの世界」という本を思い出します。アマゾンで調べると中古のトップには「271点 中古品1円」とありますが、サンデル先生の本もそのような運命をたどるのではないでしょうか。

ネガティブに書きましたが、身近なところから政治哲学を考えるきっかけを与えるトークとしてはたいへんわかりやすいものでした。ただ、私も講義の時には日常性から出発することに心を配っているのでサンデル先生の講義にそれほど新鮮味を感じなかったのです。

付け加えれば、問いの設定が極限的であるために対立的な考えが出るのは良いのですが、そのことによって問題の多面的な見方ができなくなっているのではないかと思いました。