2011年1月7日金曜日

サンデル先生のハーバード講義

お正月にうわさの講義の放映を見ました。「なるほどこういうものなのね」というのが感想です。大教室で録画がなされているという状況にもかかわらず、先生の問いかけに対して多くの学生が冷静に発言していました。もちろん居眠りしている学生は映っていませんでした。日本の講義でも学生がこのように質問してくれるとよいのですが。やはり幼児期からの訓練の違いによるのでしょう。また、この講義には多くのTAがついていて入念な準備と反省による改善が行われているのもポイントでしょう。

サンデル先生は学生の発言を上手に切り取って話を進めていくやり方がうまいです。乱れることなく進めるのがプロですね。しかし、問いは極めて類型的で答えも予想されるものばかりですので、同じような講義を何年かしていればあのようにできるのでしょう。

哲学の内容については一般教養として教えるにはこの程度でよいが、こんな講義を毎週聴講しても表層的な哲学の知識しか身につかないでしょう。サンデル先生は政治哲学が専門だそうですが、講義は「だれにでもわかる実践政治哲学入門」といった感じです。ほとんどの学生が理解できるようなレベルです(高校生でも理解できる)。このようなレベルの内容で本までが出版されて売れているというのが理解できないです。

哲学をわかりやくすく説明する話としては、20年前に出てベストセラーになった「ソフィーの世界」という本を思い出します。アマゾンで調べると中古のトップには「271点 中古品1円」とありますが、サンデル先生の本もそのような運命をたどるのではないでしょうか。

ネガティブに書きましたが、身近なところから政治哲学を考えるきっかけを与えるトークとしてはたいへんわかりやすいものでした。ただ、私も講義の時には日常性から出発することに心を配っているのでサンデル先生の講義にそれほど新鮮味を感じなかったのです。

付け加えれば、問いの設定が極限的であるために対立的な考えが出るのは良いのですが、そのことによって問題の多面的な見方ができなくなっているのではないかと思いました。