2012年7月26日木曜日

考えて食べるハエ

以下の論文が726日にオンラインでリリースされました。
Taste preference for amino acids is dependent on internal nutritional state in Drosophila melanogaster. J. Exp. Biol. 215, 2827-2832, 2012


ショウジョウバエは体内のアミノ酸不足を感知し、味覚感度を変化させることにより、アミノ酸をより多く摂取することを発見
 
背景
人間は、ビタミンが不足していると野菜を食べたくなったり、必須アミノ酸が不 足するとタンパク質を食べたくなったりするのでしょうか。このような能力が人間に備わっているのかは未だ不明です。むしろ、甘くて美味しいと感じるものば かり食べることによって肥満や糖尿病になることが先進国では問題になっており、何をどれだけ食べるかを知るために栄養学の知識が不可欠となっています。私たちは、生物が臨機応変に適切な食物を選ぶ能力があるかを調べるため、ショウジョウバエを用いて実験をしました。

内容 
ショウジョウバエにとっても体内で合成できない必須アミノ酸があり、それらを摂取しなければメスのハエは産卵できません。そこで、ハエの成虫をアミノ酸を含まない培地で6日間飼育した後、糖とアミノ酸の2種類の溶液のどちらを摂食するかを調べる2者 選択嗜好実験行いました。この結果、アミノ酸を含まない培地で飼育されたハエは、アミノ酸を欠乏していないハエと比べてアミノ酸をより好んで摂食するとい うことがわかりました。つまり、ショウジョウバエは体内のアミノ酸レベルをモニターするセンサーを持っており、アミノ酸欠乏状態になると、アミノ酸を選択 的に摂食するようになる仕組みが存在するということが明らかになりました。また、ハエの口器にアミノ酸溶液を触れさせて吻の伸展反射を調べることで、実際 に、唇弁の味覚器について、特定のアミノ酸に対する感度が欠乏状態で上昇していることがわかりました。また、アミノ酸を欠乏したハエは糖を食べて満腹状態 であってもアミノ酸を摂食することがわかりました。このことから、糖とアミノ酸の摂食はそれぞれ独立に制御されていると考えられます。

効果
ショウジョウバエは、体内でアミノ酸が欠乏していることがわかり、選択的に食 物を選ぶ能力を持っていることが判明しました。これは人間が思っている以上に昆虫が高度な意思決定を脳で行い、環境に適応して生活していることを示す結果 です。生物研究のモデルとしてショウジョウバエで昆虫生理学の研究を行うことは、人間が持つ隠された能力を知るための重要な知見を与えることになります。

今後の展開 

ショウジョウバエが体内に持っていると考えられるアミノ酸センサーが、どのような仕組みで働いて摂食行動を制御しているのかを今後研究していく予定です。

考えるハエ(谷崎美桜子)