2010年9月30日木曜日

CyOの "O"

Cyは翅の突然変異体です。 CyO(Curly of Oster )は、Osterさん(Bowling Green State University, Bowling Green)が1956年に報告した染色体逆位を持った系統で、第2染色体のバランサーとして用いられています。元になったはIn(2LR)Oで、これは第2染色体の左腕と右腕の間の逆位の意味です。

バランサーは、FM, SM, TMが頭につくのが規則ですが、 CyOはその規則ができる前からの名称なのでそのままなのです。他にも、Basc, Binsnとかありましたが今は使われていません。バランサーといえども交叉が100%抑制されるわけではなく遺伝子座によっては交叉が起こります。 CyOはその点で優れたバランサーであったのでそのまま使われているわけです。

違う分野で名称について同じようなことは、酵素名のtrypsin, pepsinについても言えますね。-aseで終わるという規則の適用外です。

2010年9月29日水曜日

Genetic Background 遺伝的背景に気をつけましょう

Canton-S, Oregon-Rなどの系統はisogenic strainとよばれていますが、誤解を与える名称です。これらは野外から採取してきたハエを近親交配を繰り返して確立した系統ですが、近親交配が何十代も行われた直後は、個体間の遺伝的な違いはほとんどない遺伝的に均一な系統です。

しかし、その後何十年も飼育されているとその集団内に変異が蓄積されてきます。異なる研究室のCanton-Sも遺伝的に同じとは言えないわけです。研究室では飼育条件も異なるので蓄積された変異の集団内での残り方も異なるでしょう。実際、Canton-S系統から異なる行動形質が選抜できたという実験例が報告されています。

遺伝的な変異がどのような形質の差異に関わっているかを調べるために、興味あるプロジェクトがすでに始まっています。自然集団から採取した1匹のメスから増やしたisofemale lineを確立して各系統の全遺伝子の発現レベルをマイクロアレイを用いて調べ、複数の研究者が異なる形質をテストし、マイクロアレイの結果と対応させるという研究です。

さて、実験で用いている異なる系統間の遺伝的な変異も問題になります。例えば、様々な系統の学習能力を調べてみると随分違います。Gal4, UAS系統を用いた実験では、何をコントロールにするかが大きな問題です。それぞれのGal4, UAS系統がコントロールになるという考えもありますが、それぞれをwhiteに交配してヘテロを用いている論文も多いです。

遺伝的なマーカーがある場合は、戻し交雑によって用いる系統の遺伝的な背景を揃えることもよく行われます。P因子挿入系統はw[+]がありますから、whiteの系統に交配してw[+]をひろうという作業を繰り返せば、挿入部位以外の遺伝背景をwhiteに揃えることができるわけです。その場合、w[+]のハエはメスにすべきです。雄では組み換えが起こらないからです。

2010年9月28日火曜日

TAの心得

teaching assistantが日本でも導入されたのは何年前からか忘れましたが、その心得とか役割が確立されていないように思います。TA予算が先にあり院生に支払っておこうかという感じがします。全学共通教育の学生実験や学部での実習にTAが配置されます。私のラボでは、SSHやESSP(未来の科学者育成講座)のように高校生の実験にもTAの働きがあります。ここでは本来の意味を考えるという立場で原則的なことを書きます。金額は確かに少ないですが、、

1. 勤務時間
実習のTAの学生がずっと座って内職をしていることがありますが、 実習におけるTAの役割は見張りだけでないので、勤務期間中は働いているという自覚をもって勤務に集中してほしいです。回りながら指導、助言できることは多くあります。

2. 実験内容
自分で行ったことがない実験でなければ上手く指導できません。どのような実験でも注意すべき重要なポイントがありますので、適切な助言を与えるためには実験の操作の理解が要ります。

3. とっさの判断
簡単に思われる操作でも初心者には難しいです。トラブルを未然に防ぐために事前の指示、デモンストレーションを丁寧に行い、さらに実際の作業を見ていてアドバイスすることが求められます。

4. TAの役割で私が大切だと思うのは、先輩として学問の楽しさと難しさを伝えることだと思います。

2010年9月24日金曜日

スモークチーズだったんだ!

海外では「これは何だろう?!」というもので、持って帰ることができる食物を買うことが多い。昔、ポーランドの古都クラクフに行ったときに駅前の公園でおばさんがバスケットに石鹸のようなものをたくさん入れてを売っていた。食べ物にも思えたので買って帰国してから食べてみたが、やはり食べるものではないような気がして、またおいしくもなかったので捨ててしまった。その正体がクラクフの住民(ボクダンさん)のブログで判明した。そのまま食べるのではなく、お料理に使うようだ。今度行ったら買ってくるぞ。まだ4度目のポーランド行きの予定はないが。

 

2010年9月23日木曜日

学術集会さまざま (3)

学会発表は何のため?

新しい研究成果を発表するためである。論文になっていることは学会発表しない。学会発表は「私たちはこのような新しい発見をしました」という宣伝である。

同時に他の研究者との議論が重要である。近年、ポスター発表が一般的になったが、発表の時間が短くて多くの研究者に聞いてもらい議論できないという欠点があると思う。すでに先客がいて議論していると、話が終わるまで加わることができない。加えて、院生が聴衆の前で発表をするという緊張感を体験できない。

もうひとつの意義は学会の会場で出てからの交流にある。その時に、いつものラボのメンバーでなく他の研究者と親しく話す機会となればよい。

2010年9月22日水曜日

学術集会さまざま(2)

5月にボンで参加した集まりはとてもよかった。まず、参加人数が30名ほどでほとんどの人と話をすることができた。さらに、テーマが「昆虫における栄養とホメオスタシス」と、まだ確立されていない新しい領域で、普段はあまり会えない研究者とも話ができた。学会という組織は一度できたらなかなか解散できないし、毎年、学会を開催しなければならない。分子生物学会のように栄えている学会では演題数も増える一方だ。有名な演者のシンポジウム講演の時など、後ろに聴衆があふれての前の床に座っていることがある。質問者はマイクの前に並んで待っていて、質疑応答がなされている。福岡で開催された時はドームのグラウンドがポスター発表の会場だった。しかし、分子生物は巨大になりすぎている。会場も横浜か神戸が多くなり、町も混雑する。会場で誰かに会っても二度と会うことはない。

学術集会さまざま(1)

研究に関する集まりには、学会、シンポジウム、班会議などがある。研究者はそれぞれの専門によって所属する学会が異なるが、通常複数の学会に所属している。私が入っているのは、遺伝学会、生物物理学会、動物学会、比較生理生化学会、味と匂学会、分子生物学会、時間生物学学会である。この中には退会したい学会もあるが惰性で入ったままである。昔は年に2つほどの学会で発表をしていたことを思いだす。

最近の当研究室の院生が入って発表している学会は分子生物学会と味と匂学会だろう。隔年に開催されるショウジョウバエ研究集会にも参加している。これは年会費がなくだれでも参加発表ができるが、通常の学会は年会費を支払わないと発表できない。

海外では、米国のCold Spring Harbor(CSH)とヨーロッパで交互に隔年で開催される集会は「ショウジョウバエの神経生物学」に特化した集まりであり、参加する価値がある。共に200人以上の参加者がある。CSHは米国の参加者が多い。日本の学会では、例えば動物学会だとショウジョウバエの神経・行動に関する発表は数えるほどしないが、この海外の集会では200題以上の発表がある。日本のショウジョウバエ研究集会でも行動に関する発表は数十もない。当研究室では、こらら欧米の2つの集会で発表することを勧めており、これまで多くの人が出かけている。その場合、できるだけ一人で行かせるようにしている。

米国とヨーロッパの集会は明確に雰囲気が異なる。 Cold Spring Harborの会合は、たいへんレベルが高く、ほとんどがすでに有名雑誌に投稿済みの研究が発表される。講演は希望演題から選ばれ、朝から夕食後の夜10時まで発表が続く。Cold Spring Harbor研究所はニューヨークの郊外の別荘があるような隔離された場所にあり、宿舎はほとんどが共同でデリバリー食材の食事は味気ない。ただ、最後の夜のディナーのロブスターは食べ応えがある。私はたぶん4回ほど出席して2回講演した。

ヨーロッパの集会Neuroflyは、毎回違う都市で開催され近年の場所をあげると、マンチェスター(英)、ヴュルツブルク(独)、ルーベン(ベルギー)、ディジョン(仏)である。CSHのようにピリピリした雰囲気はあまりなく、演題の雰囲気も少し違うし、それぞれの町での滞在を楽しむこともできる。

2010年9月14日火曜日

もつこと と あること to have or to be

私は、人が持っている地位や財力や知識や権力によってその人との接し方を変える人を好きになれません、いや嫌いです。

例えば事務室で学生が話にいってまったく埒があかない状況で私が顔を出すと事務員の態度はがらっと変わったことがあります。院生が訪問した時には適当にあしらい、偉い人が尋ねて来たときはがらっと接待の仕方が変わる人がいます。業者に対して高飛車な人もいます。

わたしはどのような場においても、その人が持っているものでなく、そのひとがあるところものを大切にしたいと思うのです。

フランスから学ぶこと

インターンシップで私のラボにきているまえると話しているといろいろと学ぶことがあります。休日は出かけたの?と訊ねたら「PCを持ってスタバに行ってインターネットが繋がらないところで5時間粘って実験データをまとめてた。スタバはあほなアメリカ人が行くとこだからパリでは行かないけど」ってのたまった。

ヨーロッパの人々の多くはアメリカ人が嫌いです。フランスでは50%ほどの人がほんとに嫌いといいます。「あほなアメリカ人」という言葉が思わず出たのがおもしろかったです。日本人はアメリカ人の「あほさ」をわかっていません。

わたしも集中して仕事をしなければならない時は論文などを抱えてカフェに行きます。しかし、1時間もすると集中力が途切れてきます。まえるちゃんが5時間もデータをまとめていたという集中力に学びたいです。

月曜日にそのまとめをもらいましたが、よく書けていて役に立ちます。彼女を見ていると、データのまとめかたのうまさにいつも感心です。結果が出たらすぐにエクセルの表が仕上がります。これは彼女が受けてきたフランスの教育によるものに違いありません。