2012年2月12日日曜日

生物系の研究者になるために

研究者としてやってゆくには、英語の能力を高めて世界的な視野を持つことが大切であることは繰り返し書いてきました。それに加えて必要とされることを書いてみましょう。

大学院の重点化という誤った政策によって大学院の定員が増えたことによって、博士号取得者の過剰、行き場のないポストドク問題が生じています。 加えて、世界的な財政危機によって、裕福だったアメリカ合衆国でも研究費が少なくなりポスドクのポジションの数も減少しています。

日本では今後、自由に研究ができる大学は少なくなってゆくでしょう。このような時代にあっても博士課程に進みたい方はよく読んでほしいです。日本の大学、科学には勢いがなくなっているので、先を見越す一部の人は、大学からあるいは大学院から海外に行っている時代なのです。

1. 研究への集中力
ラボに来た時、今日やるべきことが頭の中に入っていますか。また今週の、今月の、あるいは長期的な展望がありますか。その目標を自ら設定していますか。研究は強制されてやるものではなく、楽しいから好きだからやるのです。

海外の研究所で感心するのは、朝早く居室に来たと思ったら皆がすぐに実験室に籠もって仕事を始めることです。そして夕方になるとデー タをまとめて6時過ぎには皆がさっさと帰宅します。つまりラボは仕事をするところで、早く帰ってプライベートの時間を持つという姿勢です。これは米国でも同様で夜遅くまで残っているのは日本人か韓国人か中国人です。日本人はラボで遊んでいることが多いのでだらだらとなるのかもしれません。それは望ましい過ごし方ではないでしょう。

ラボにおける滞在時間が問題でなく、どれだけ集中して密度濃く、また効率的にやるかが問題です。ただ私の場合は例外で、仕事の量が多すぎて1日12時間以上集中して取りくんでも仕事が終わることがないのです。

会社・企業では社内のコンピュータを私用に使うことは厳しく規制されています。例えば勤務時間中の私的twitterが問題になっています。大学ではそこが自由なのでけじめがなくなる傾向にあるのです。自己規制しかありません。

2. 研究以外にも好きなことがあること
これは私の理想ですが、科学者としての評価の対象にはなりません。私は研究者であっても科学分野以外の分野の本を読む人が、音楽を聴いたり、絵画を楽しむ人が好きです。旅とお酒と料理も。付け加えれば、研究者が選ばれたエリートであることをぷんぷんさせている人が私は嫌いです。

3. 自立すること
ポストドクで行くラボのボスは放任主義かもしれません。これまでだれも成功しなかったテーマが与えられるかもしれません。研究者となるにはできるだけ早く自立することが求められます。与えられたテーマが上手くいきそうにないと思ったら、別のテーマを同時進行させる必要があります。つまり、自分でテーマを考 えることができるという能力が要るのです。ボスが自分で論文を書いてしまう人の場合はポストドク時代にも論文を書く能力が伸びません。

4. 学問的に重要な研究課題を思いつくことができる能力
研究課題のオリジナリティがとても重要です。たとえば研究費の申請をする場合には、分野外の審査員にその研究の新規性、重要性を訴えなければなりません。 ハイランクの雑誌に研究成果を出すには、学問的に重要(general interestがある)でなければなりません。研究テーマは無限にあります。でもそれがわかって何なの?と思われる研究が多いのです。だれも考えていないような研究テーマ、実験手法を思いつくことができる能力がとても重要です。

5. ラボ外にアドバイザーを持つこと
例えばラボで使われていない技術を導入する場合、ラボ内でアドバイスを受けることができないことがあります。そのような場合、ラボ外で質問できる人がいると良いです。欧米のラボは研究室の間に壁がなくてそれが比較的容易です。

学会では、たくさんの知り合いをつくってほしい。大ボスであっても若い人から話されるとうれしい。もちろん何を話すかが問題ではあるが。私が院生の時は国内の多くのボスたちと知り合いになっていた。また、国際学会では著名と言われる人たちと話すように心がけていた。

6. 挫折経験を乗り越えること
これは逆説的ですが、研究はいつもうまくいくとは限らないものです。数年間何もデータがでなくても耐えて状況を打開してきた人は強いです。逆にそのような苦労をしないで上手く成功してきた人は、人間的におもしろくありません。

7. 論文を出すこと
7番目になってしまったがこれはとても重要なことです。いかに優れた能力や研究成果を持っていても、論文になっていないと評価されません。評価の基準はたいへん悲しいことに論文が掲載された雑誌のインパクトファクター(IF)と論文の数です。極論すれば内容ではありません。なぜなら多くの人は他分野の研究内容を評価する能力が低いので、雑誌のインパクトファクターという数値に頼るのです。しかし、4で書いたように何が良い仕事かを見極める能力は重要です。IF信仰から脱却すべきです。

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