2022年6月3日金曜日

読書日記「南島に輝く女王 三輪ヒデ」


   倉沢愛子著「南島に輝く女王 三輪ヒデ」国のない女の一代記 岩波書店 2021


倉沢愛子さんはインドネシア現代史の研究者。インドネシアの文書館に整理もされずに埋もれていた一通の手紙を読んで、そこから一人の日本人女性の生き方を15年の調査を元にして掘り起こして書いた伝記です。その手紙に気がつかなったなら、この本は書かれなかっただろう。末娘の方がインドネシアでご健在で著者は何十回も足を運び、国内外を旅して調べた。

昔、函館は横浜と同じように世界と繋がっていた。1860年に建てられた函館ハリストス正教会からもわかるように、函館はロシアとの結びつきがある。

函館でロシアから亡命してきた貴族出身の男性と結婚した三輪ヒデはオランダ領東インド(インドネシア)に移住し農園を経営し9人の子供を産んだ。ところが、太平洋戦争が始まり日本軍がオランダを追いやって東インド全域を軍政下に置いた。しかし、日本が敗戦するとインドネシアの独立戦争が起こる。日本、オランダ、インドネシアの複雑な歴史に翻弄されて9人の子供たちは世界に散らばった。三輪ヒデはオランダから米国に渡るが最後はインドネシアで骨をうずめた。反乱万丈の一生だった。ロシア人の夫とは離婚をするが、無国籍の夫はインドネシアを一度も離れなかった。

三輪ヒデの差別や迫害をも乗り越えた生きざまは実に逞しい。一通の手紙からすばらしい物語を導き出した著者に感謝したい。


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