2015年3月10日火曜日

インド再び





3回目のインド行きは随分前から決まっていたが査証を得たのは出発直前だった。インド内務省からの書類がなかなか届かなかったからである。初回はシンガポール航空、前回はタイ航空だったが、今回はシンガポール航空を選んだ。福岡からインドに飛ぶ場合はどうしても乗り継ぎ時間が長くなる。シンガポールのチャンギ空港は広くてにネットが快適に使える。シンガポールに着きバンガロール行の搭乗まで4時間の仕事。その後、4時間半のフライトで夜10時にバンガロールに到着。入国審査は会議ビザがあるにも拘わらず、いろんな質問に答える必要があった。審査官が無駄口たたいているに違いなかった。私に威厳さが欠如していたかもしれないが。ようやく通してもらい入国する時も手荷物チェックがある。


ターンテーブルからスーツケースを 回収して夜の空港の建物を出ると壮観だった。50人を越える人々が横一列になって名前を書いた紙を掲げてこちらを見つめているのだ。真ん中から 右の方へ歩いて行くと私の名前が書かれた紙を見つけることができてほっとした。偽の名札を持っていてどこかに連れて行かれるという話を聞いていたので、ポスドクの方が迎えに来てくれていて安心した。ちなみにインドの空港のビルには飛行機に乗る人しか入れないので待ち合わせは外になる。


研究所に着いてゲストハウスに部屋に入って驚いた。昨年の春に来た時は、すべてが古くてみすぼらしい部屋だったので覚悟していたが、内部を改装して立派なホテルのようになっていた。お陰で快適な生活を送ることができた。









牛も人間も区別なく歩いて食べている


翌朝、鳥の鳴き声で目覚めると土の香りがした。昼間は適温で夜は少し涼しくなり、カラッとしていて過ごしやすい毎日だった。日本の冬からの急激な温度変化にも体は適応できていた。







謎の甘い飲み物


いつもの食堂での朝食の後、ラボで共同研究の打ち合わせを行った。夕食は外のホテルのレストランに連れていってもらった。翌日の土曜と日曜は、月曜日の講演public lectureの準備をしていた。土曜の夕方に車で移動してstreet foodが食べられる古い屋台が建ち並んだ場所に連れて行ってもらい、いろいろな味を楽しんだ。不思議なものばかりで辛くなく何を食べても美味しかった。


研究所の食堂が閉まるのは日曜日の夕方だけだが、不思議なのは研究所や食堂に土曜日も平日と同じように人がいて、日曜日の朝もそれほど変わらないことである。夕方はレセプションがあった。


月曜日に学校が始まり夕方の講演をこなした。この「化学生態学の学校」には、インド各地から20数人の院生達が参加している。2週間の参加費はすべて無料だという。 午前中は講義、午後は実習で夕方に講演というスケジュールが2週間。化学生態学といっても、昆虫から植物、微生物と広い領域にまたがっている。私の講演には途中で多くの質問を受けたが、インド英語のヒアリングが問題だった。インドの言語は多数あるが、英語のなまり方も多様に違う。






今回の滞在でいちばん楽しかったのはドイツからインターンシップでNCBSに数か月滞在していた院生にミツバチの学習実験を見学させてもらったことである。野外にあるミツバチ小屋に巣箱があって、そこから飛んできたミツバチにY迷路の選択学習実験をしてもらう。Y迷路の選択点に入ると奥に黒い円形が見える、その黒の大きさと糖を学習させることで、ミツバチが黒の円の大きさの差をどこまで識別できるかを実験するのである。ミツバチは個体識別をカラーコードでして いる。左右にパターンや糖と水を入れ替える単調な実験であるが、彼はその合間に、ミツバチがいかに賢いかを語ってくれた。実験を実に楽しそうに やっていたのが印象的だった。朝食を食べると直ぐにここに来て、毎日同じ事を繰り返している。



ミツバチは慣れてくると人間も識別してわかっている。選択ができないときは、 毎回兎に角、どちらかに方向を決めて行くという判断をしているとか。ついでに、ショウジョウバエの研究者の発表は遺伝的手法を駆使した話ばかり聞いてきたが、わたしのトークは行動に集中していてとても楽しかったと感想を述べてくれた。私は講演の冒頭で、多くの研究者は単にモデル生物としてショウジョウバエを用いているが、私はショウジョウバエを昆虫の1種として研究をしていると自己紹介した。


もうひとりの院生のカーテンを作るミツバチの研究もおもしろかった。東南アジアのミツバチの中にはopen nestといってミツバチ自身が群がってカーテンを形成する種がいる。このミツバチたちが協調的な動きをする。外敵がくるとshimmeringといってウェーブをして振動音を発生させる。水がかかると腹部の角度の変化させる行動をする。数種類の協調的な行動パターンがあり、どのような個体間の伝達によって協調的な行動ができるのかがおもしろい。カーテンを形成している各個体は時々、交替をしている。さらに全員が上空に飛び上がる行動も観察できることがあるという。


彼らは研究所の外の学生寮に滞在して連絡バスで通っているが、夜にわけのわからないインドの音楽が鳴り続けていて安眠妨害だと言っていた。ただ、ドイツに 戻った時には、そのような悲劇的な出来事はなかったことにして話さないと言っていたのが印象だった。心優しい若者だ。






最後の日の木曜日は夕方の講演を聞いてから夕食後に空港へ向かった。夜11時にバンガロールを出て4時間半の飛行時間で朝6時にシンガポールに着いて、空港に丸一日いた。仮眠をとり仕事をして、食事をして仕事をして過ごした。空港内にはこの写真のようなきれいなコーナーがあり、蝶の庭とか楽しめるスペースもたくさんある。シンガポール料理の屋台コーナーで食事。空港で1日を過ごしたのは初体験だった。




深夜の1時に発って4時間半の飛行時間で朝8時20分に福岡空港に到着。2日連続で深夜の4時間ほどのフライトでほとんど眠れないというのは、連続徹夜に近い。帰宅してシャワーを浴びてから、修論発表の練習のためにラボに向かった。


私がこれまで見たインドは限らた場所である。研究所は柵で囲まれガードマンの警備で守られて いる特殊な場所である。研究者も院生もほとんどがアッパークラスのカースト属していると思われる。市内に出るとカオスの領域ではあるがそこでも滞在時間も 限られている。また、バンガロールはインドの中でも危険が少ない都市である。インドを知るためにもっと自由に旅をしてみたい。


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